花火野郎の観覧日記'98

特別編 2/22 長野冬季五輪閉会式の
フィナーレ花火
長野県・長野市

 家を出て300メートルも歩いたところで「あぅぅぅぅっ!」、なんと三脚を持っていないことに気がついて走って取りに戻る。日頃、三脚とレリーズは不可欠、などと撮影テクニックでのたまわっている本人がなんという不覚。前回の観覧で長靴不参に泣いた花火野郎は(河口湖冬花火の項参照)、豪雪の(?)長野を予測して、長靴を袋に入れ肩に掛けていたので三脚と勘違いといったところか。
 電車に乗る前でよかったぜー。いったん大宮へ出て長野行新幹線の初乗りである。一番列車の「あさま」は大宮の次はいきなり長野。これを一時間で走るのだから目覚ましい速さである。居眠りこく暇もなく長野へ突入。
 篠ノ井を通過するあたりで新幹線の車窓からも遠くに(遠くに!)閉会式会場の南長野運動公園が見える。小さく聖火も目に止まり「テレビでやっているのと同じだー」と妙に感動してしまう。
 まったくの誤算であったのは、雪がない!道路にも田圃にもぜんぜん雪がない!あぁ長靴でズサズサと雪を踏み抜きたかったのに!長野駅に着く前にもうお荷物になってしまった。駅構内はさすがに五輪一色である。胸に入場券や関係者用のIDカードを下げた人が行き交い、本当に日本でやっているんだと感心する。
 遠い。篠ノ井駅から南長野運動公園まで2.7km、徒歩40分と公式ガイドにあるが、歩くような距離じゃない。それでも帰路の時間が読めないので歩いてみる。今日の長野は快晴。素晴らしい閉会式そして打ち上げ日和だ。カートを引いてガンガン歩いているとどっと汗が出てくる。暖かいし、陽に灼けそうなくらい日差しが強い。
 さてまず、ロケハンにかかる前に打ち上げ現場を訪問し、情報を得る事にする。あらかじめ業者に訊いていた場所を順に訪ね、花火の設営状況を把握する。打ち上げ開始まであと9時間半。
 最後までNAOCが見事にシークレットにした花火内容もおぼろげに見えてきた。テーマは四季、花火で季節を演出し、総計5ヶ所からの一斉打ち上げだという。
 打ち上げ場所は概ね田圃の中や農道だが、メインとなる聖火台裏の打ち上げ場所では、保安距離内には民家やビニールハウスもあり、普通なら消費許可が下りないような場所。五輪スペシャルである。つまりは今後二度と五輪以外でもこの場所で花火を打ち上げることはないのである。各筒場の向こうに聖火台のある仮設スタンドが見える。打ち上げ筒ごしに聖火が見えるような作業場(写真右)も地元ではまず二度とないであろう。筒と聖火とともに記念写真に収まる打上従事者も五輪気分、五輪記念である。 
 さてどこから聞きつけたか?花火写真愛好家もプロのカメラマンも代わる代わるやってくる。何せ誰にとっても今日のこの日が「今回限り」の「ぶっつけ本番」の撮影だから情報収集や交換には自ずと熱が入る。それでも現場めぐりまでして「どこから、どんな風に撮るか」について悩むのは愛好家だけのようだ。新聞社やテレビ局のカメラマンはタクシーで現場に乗り付け、待たせて置いて花火業者に二言三言聞くと、さっと帰ってしまう。
 花火業者や電気点火業者に色々と話を伺い、現場取材も実りあるものとなった。ついで今度は撮影場所確定のためのロケハンをしながら、他の打ち上げ現場に挨拶をしに行く。聖火台の見える場所、スタジアムの近く色々な処で観光客が記念写真を撮っている。がスタジアム周辺は厳重な囲いの中。もっと近くによれたらいいのに。
 想定していた撮影場所一帯を歩き回り、地図で何度も確認し、ただ一点に絞りこまなければならない。せっかく五輪だからスタジアムごしに狙うつもりだが、いったいその上空どれくらいの位置に開くのかが予想になる。何メートル離れたら花火の見かけの高さはこれくらい、従ってレンズは何ミリ、とこうした読みは経験がウエートを占める。地図と見比べ、聖火台裏の3箇所の打ち上げがそれぞれ目の前のスタジアムのどのあたりから昇るのか?を綿密に計算する。「横位置(の撮影に)なるかもしれない」と予測し、事実そうなったのだった。なにせ8分間でそれきりだから、始まったらもう展開に遅れずに撮っていくだけで、アングルや露出を繰り返しチェックなどはしていられない。こうした場合は事前の正確な予測がカギとなる。
 日が落ちると相当冷えてきた。スタジアムの外壁がライトアップされ蓮の花をイメージしたという内野部分が闇に浮かび上がる。18時前、携帯ラジオを用意し、NHKの実況を聞きながら撮影のタイミングを取る。合唱が終了し予定の19時20分を少し過ぎて(予定許容範囲内)、スタジアムをぐるりとりまいての5箇所同時の一斉打ちから入った。
 撮影場所は東側打ち上げ地点の保安距離のスレスレ外側だが、至近距離であるには違いない。レリーズすると同時に背中から「ズドドドドッ」とうなりをあげて打ち上がり迫力であった。
 緑牡丹の「春」からスタートした打ち上げ(写真左)は、全てが長野県内産の素晴らしい花火である。ひまわりの夏、菊花壇の秋、銀冠の冬と続き、フィナーレは万華の花から錦冠の一斉打ちだった。ラストの冠が長く引いて自分の周りにも落ちてきて壮観だった。
 拍手とどよめきそして溜息と驚きがスタジアムに満ちているのが外からも良く分かる。打ち上げは大成功だ。8分で5000発、一ヶ所で1000発を打ち上げるのだから凄い密度である。5000発といえば1時間もつ夏の納涼花火が開ける位なのだから。
 カメラはいつもどおりズームを使用。保険で縦位置でスタートし、最初の1カットのあとすぐ横に切り替えて、最後まで約30カットを撮りきった。
 こうして綿密に準備していても、自然には適わない。絵柄も花火の高さも予想通りにいったのに、夕刻になって東に振れた風向きが痛かった。こうなると真横の打ち上げ地点の煙がモロに目の前を通過してしまうのだ。ついでB地点の煙もスタジアム上空に来た。結果として大部分の打ち上げを煙りごしに観ることになってしまった。スタジアムのライトアップも思いの外明るかった。
 全てが終了後、半ばボーッとした余韻の中で、急いで撤収にかかる。最後にもう一度打ち上げがあるが、ゆっくりもしていられない。パッキングを終え、いつものように懐中電灯で辺りを照らし、忘れ物のチェック。すると足下にポカ玉に込める遊泳星の燃え殻が落ちていた。フードをしていたので気にならなかったが、後ろから相当量の燃え殻が降り注いだようだ。5センチくらいの紙パイプのそれを拾い上げ、長野五輪の記念にとそっとポケットに仕舞って、あとはまっしぐらに篠ノ井駅にひた走るのであった。何時間も前からただ花火だけを撮るために居た私に「異様」を感じたのか、背後にいた若いPOLICEが引き上げようとする私に「ご苦労さんです」なんて言うのがどうにもおかしかった。
この項終わり

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