花火野郎の観覧日記2017

観覧日記12 7/22
2017 広島みなと夢花火大会

  
広島県・広島市

 広島初観覧を決めたものの勝手がわからないので、撮影場所は現地でロケハンするとしてあらかじめ保険で個人協賛の芝生席を買っておいた。万一観覧場所に困っても最低そこには入れて観られるからだ。使わなくても協賛金。芝生席は3,500人分発売されたが、発売日に現地直販で即時完売となった模様。私のようなよそ者は現金書留で申し込むという方法。
 公式HPで情報が順次公開されていくにしたがって、有料協賛席、企業協賛席を挟んで、中央物揚場及び1万トンバースの入場制限エリア(人数制限の一般観覧席)について報じられた。合計12,000人分だが、入退場には現地で事前に配られるリストバンドが必要なエリア。なかでも10,000人を収容する1万トンバースという海際のエリアは、そのリストバンド配布が午前7時からというよそ者には無理ゲーな時刻。先着順で無くなり次第終了だから入手できなければそこには入れない。
 購入した協賛席の位置はストリートビューで見ることができたのだが、そこからの絵がいまいち納得しなかった。海際の椅子席の後ろで、海面が見えるかどうかという場所。うーむ海上の花火なのに海がばばーんと見えないか。それで海側が低い柵だけの1万トンバース一般席に食指が動いたのだが、早朝から並ぶとか・・・。もっと自然に観られる場所がないんか・・・。
 初観覧は正攻法なので、このリストバンド配布レースに参戦するために前日入りを決めた。この場所に7時以前に来て行列するとなると広島電鉄もバスもダメで、路駐するな、と配布時の注意事項にあるからマイカーで取りにくる地元民ばかりだと推察、タクシーで乗り付けるしかないか・・・。
 などとリストバンド争奪戦の事ばかり考えていたが、前日になって天気予報などのチェックに入ると、夏の海沿いの打ち上げで北風順風はありえないか。ということになる。メイン会場は全て打ち上げ場所の北側。つまり南風が吹いたら全域風下。
 そして当然のように南風予報なのだった。ではどうするか、と地図を眺めているうちに出かける前日木曜の夕方になってまったく別の撮影場所が閃いたのだった。そしてそこまでの経路を調べ、思いつきどおりになるかを考えた。こうして自宅から遠隔地なほどストリートビューはありがたい。観覧候補地をくまなくどういう見え方になるか調べて、三脚を建てる位置まで事前に割り出せる。といっても特別な場所じゃない。撮影場所はすなわち写真作品の一部だから、その作品の一部を常に自分で見つけることができる写真愛好家氏なら容易にそれと判る場所だと思う。
 風向きもさることながら、どうにもこのリストバンド争奪戦がしっくり来ない感じだった。そしてふいに花火写真家としてのカンで未踏の場所で撮影ポイントが閃いたのは幸いだった。そしてそのポイントでの早くからの場所取りに備えてやはり前日入りすることにした。遠いので自宅から始発で発っても、広島の観覧場所には昼過ぎに到着するのでやっとだからだ。それで三脚の壁になっていたら元も子もないというか。最悪協賛エリアはあるにしても。

 金曜はまさに行くだけの日。そして翌開催日当日。現地では何のご用もないから朝いちで閃きの場所に向かう。つまりリストバンド取得は放棄。予定地はマイカーがあれば観覧場所に横付けできるが徒歩だと最寄り駅から約4キロメートル、30分はかかる場所だった。駅から海沿いや急坂の切り通しを経て現着すると早朝にもかかわらず汗びっしょりになった。現地はストリートビューで見たそのままで、そして誰も来ていなかった。まぁそうだろうな・・・。安心したが拍子抜けした。後の途方もない待ち時間を考えると一番乗りが嬉しくないというか。どうすんのよこれ。トイレと飲み物の自販機は近場にあることが判ったが、お店も食堂も見あたらず。はてさて。
 それからひとしきりロケハンし、めぼしい場所を確保するが、そもそも初めての場所だから毎回どの辺で打ち上がるのか見当もつかない上に、早すぎて打ち上げ船も居ないから立ち位置も構図も何もない。決めようも無い。つまり確保もだいたいの適当。散歩で通りがかる地元の住人に声をかけ、「花火はどの辺りから?」と聞いてみたところで、「あっちの方」くらいの、私がミリ単位で三脚を建てるに対してキロメートル単位のアバウトな答えが返ってくるのはよくある話で・・・。そしてやることもなくなって海を眺めて行き交う船を目で追って座っていると、時間がとてもゆっくりゆっくり過ぎる。彼方の1万トンバースでは、リストバンド配布と場所取りが始まっているらしく、ふ頭のあちこちに多くの人の姿が見て取れた。もちろんシートを敷いた後はいったん引き上げるのだろう。
 日陰に避難しながらの長い長い待ち時間だった。その後、夜のために三脚を携えた写真愛好家が何人もやって来ては、いったりきたり撮影場所決めに悩んでいる様子だが、打ち上げ船が来てないのだから悩んでも仕方ないわけで。
 結論から言えば早く着き過ぎた。そんな焦らなくても、15時から16時くらいに現着しても充分だった。しかしよそ者にはそんなことわからないから、万一の保険をかけなければなぁ。地元民はそんな早くから真夏の海沿いに「花火待ちで」居座る酔狂な奴など居ない。道路が交通規制されて通行できなくなるのが17時なので、近隣の地元の住人も車が途絶えてから見物にやってくる。
 車で来る人は17時以前に規制エリアに入ってしまわないとならないから、その時刻がリミット。間違っても午前中から場所取りして待機する必要はない。やっても場所だけ取って日中は他の用事をするか自宅に避難だ。ところどころシートが敷いてあったり、海沿いのフェンスに捨て三脚がくくられていたが数えるほど。
 そして17時とかかなり遅くなってからようやく打ち上げ台船が停泊しているのに気が付いた。構図を決めようにもそもそも花火の出所が判らなければどうにもならない。いつどこにそれが来るか。午後はずっとそればかり気にして海の彼方を観ていたのだけど、台船方向は日没方向で、きらめく海の中に岸壁や他の船と相まってシルエットになって見えるのですぐには気が付かなかった。航路の関係もあろうけど日中から台船を出したのでは花火屋さんも船上で猛暑に耐えられないだろうからなぁ。
 せいぜい大きめの台船が1隻だろうという読みに反してそれは3隻あった。センターがメイン台船だろうか中央に10号筒を満載した他より大型のもの。両端2隻がサブ台船か。いずれにも担当業者の國友銃砲火薬店得意の斜め放射曲打ちの筒が船首と船尾にいくつも設置されているのが見て取れた。といっても双眼鏡が無かったのでコンデジで撮って拡大して確認、という方法だが、遙か彼方の台船の甲板の様子はだいたいわかった。小一時間眺めていたが、最初に台船が居る、と判った時点から停泊位置が動くことがなかった。つまり既に所定位置にアンカー済みということ。それは思っていたよりかなり距離があるように見えて位置も規制図などに描かれたものとは大分イメージが違っていた。その停泊位置は有料の協賛エリアを中心にそこを取り巻くような配置と思われた。後に聞いた協賛席で観覧した愛好家仲間の情報では、協賛席の岸壁からセンターの台船までは400メートルほどでも左右はもう少し離れていたという。けっこう協賛席は花火に近いわけだ。そのことから計算すると、一番近い一番右側の台船までは、私の位置から約1,800メートルということが判明した。台船同士がどれほど離れているか不明だが、おそらく2〜300メートル。一番遠い台船まで2,300メートルくらいか(図版参照・台船設置位置推定。真ん中左の宇品波止場公園が、桟敷席、椅子席、芝生席の各有料協賛エリア。註:台船のサイズは適当=もっと小さい)。
 あらかじめ2箇所ほど場所取りしていた観覧位置のうち、より南側を使うことにした。全体に斜め後方から3隻を見ている位置関係だが、北側に行くほど、3隻の台船のうちセンターと左側が一直線に重なってしまうのだ。そして右台船はけっこう離れて見える。この見え方から、台船は横一直線じゃなくて協賛エリアを中心にくの字型に配置しているのでは?と考えた。3隻が分かれて見える位置を撮影場所にチョイス。あとは広島らしい、牡蠣の養殖用筏が並んでいる海域を前景に選ぶ。完全に海面だけの場所も選べたが、どこまで抽出できるかわからないものの場所的要素を少しは入れないと。
 カメラは予備を含めて2台持ってきているが、三脚は1本きり。遠出なので極力軽い装備にした。
 公式HPにはとうとうプログラムが掲載されなかったし、広島駅でもプログラム冊子は発見できず。仲間に聞くと、協賛エリアの中だけで山積みにされていたらしい。そこには一度も行かなかったから、プログラム誌も入手できなかった。しかし公式の案内で、事前にFMの実況中継があるのを知ったので、FMレシーバーだけは持って行って良かった。中継は19時から21時までだが、花火打ち上げ開始の20時からは会場でのアナウンスをそのまま流すという優れもので、離れた場所でもFMを聴く限り、メイン会場で進行を聴いているのと何も変わらなかった。放送でも離れた場所や船で観ている人のため。と言っていたのでこれはありがたかった。
 夕刻から一気に周りに三脚も駐車車両も増えた。日中は大型の工事関連車両が絶え間なく通るので路駐は場所を選ぶが、規制時間後は横付け可。けれど誰も放送を聴いている風じゃなかった。実況を聴かなければ、発射音も聞こえない距離で突然花火が打ち上がるからタイミングを合わせるのが難しい。特に玉名と業者名を言いながら1発ずつ10号の逸品12発を打つ場面はタイミングが難しいと思った。
 センターで10号を打ち、この到達高度がやはり高めなので、画角は遠間にもかかわらず横位置で50ミリを超えないくらいだった。
 プログラムは4部構成となっていた。
 10号は、野村花火工業、マルゴー、斎木煙火本店、伊那火工堀内煙火、和火屋、三遠煙火、丸玉小勝煙火店、山崎煙火製造所、菅野煙火店、片貝煙火工業etc。10号12発12社というプログラムだ。わざわざ聖礼花、幻想イルミネーションとアナウンスして、斎木煙火、野村花火の玉入りのスターマインなども披露された。1時間を通してどこを切り取っても凄い打ち上げ、とまではいえないが、要所要所の大型の打ち上げでは、放射打ち(愛好家俗称國友打ち)に加えて、水上開発花火なども交えてふんだんに玉を打ち出して豪華だった。使用玉も有名どころを取りそろえてあり、私としては当初考えていたより良い内容だったので楽しめた。ここに来たのもその國友打ちが見たかったからだが、担当大会を調べると日程的に行けそうなのが広島だったという結果。
 風向きは南や南西の予報だが、私の位置からはだいたい横奥への流れ、ややセンター台船の煙が浮いているから予報通り南南西かそれくらいだと思った。協賛席も風向きは横流れで良かったらしく、花火は綺麗に見えたとのこと。ただし間合いからしてセンター台船からの10号はけっこう高かったらしい。
 急遽思い立ってまっしぐらに観覧場所にやって来たものの、これでどうにも絵にならなかったら花火写真家としての閃きに問題有りということになるが、まぁなんとかまとまって、思い通りの絵に近かったかと思う。
 終盤あと打ち止めまで10分そこらのところで小雨がパラついた。まったくそういう予報が出てなかったのであわてて傘を出した。傘をさしかけながらの撮りだった。最後はほぼ止んでいたが、片づけて最寄り駅に向かうとあと駅まで500メートルというところで、本降りの雨に見舞われた。傘を使っても足などずぶ濡れになりながら駅に着く。打ち上げ中にこれほど降られなかったのはラッキーだった。広島駅に着く頃にはほぼ止んでいて局地的か。
 花火終了と、マツダスタジアムでのカープ戦終了が重なり、広島駅周辺は大混雑だった。野球は雨による一時中断で終了が延びた模様。飲み屋も食べ物屋もコンビニも野球ファンで埋め尽くされて、23時近いというのに、コンビニでお茶を買うのすら長蛇の列で参った。
 のちに花火の人出は公式に44万人と発表されたが花火そっちのけで野球観戦していたファンがいるわけで花火会場の客も3万人くらい少なかったのだろうか。ホテルの部屋に濡れた衣類やらを展開した後、長い待ち時間の一日に疲れ果ててさっさと寝る。

 翌日は帰宅前に朝いちで、平和記念公園に向かう。駅前から広島電鉄に乗れば「原爆ドーム前」というわかりやすい停留所があるのでそこで降りる。広島電鉄で20分くらい。広大な公園は隅々まで手入れが行き届いた場所で、今や市民の憩いの場所といった趣だ。テレビで原爆からみの式典などで見たことは何度もあるけれど、広島平和記念公園は初めて訪れる。日本人としては一度は訪れて、祈りたい場所だった。
 そも広島に降り立つのも、生涯でまだ2度目。どちらも花火からみだが、一度目は宮島水中花火大会の時、呉から翌日宮島に直ぐ渡り、広島駅に戻ったのは午前1時。翌日は諏訪湖に向けて経っている。広島市内観光をまったくしていない。27年も前のことだ。
 今回は遠いから前日入りで、往く日、花火の日、帰る日と贅沢にも3日間使っている。すると帰りの日に余裕があるので、そこで平和記念公園に訪れることにした。原爆ドームや原爆死没者慰霊碑(広島平和都市記念碑)を訪れ目の当たりにして改めて、花火に興じている現在の平和に思いを馳せる。無心に花火を見ていられることの幸せで平和なことを噛みしめる。
    
    

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