花火野郎の観覧日記2013

観覧日記番外特別編 10/26
第9回 釜山花火祭り(The 9th Busan Fireworks Festival)

  
韓国・釜山広域市

 昨年が天候のせいとはいえ、花火も観られず写真家として何もせずに帰ってきたのは慚愧に堪えない無念さだっただけに、とにかく無事に花火が開催され、私をその前に立たせて欲しい、とただただそれだけを願ったリベンジの韓国再訪だった。大金をかけ一人だけ海外渡航し収穫は土産の韓国海苔だけとは家族に顔向けもできない。その肝心の天候だが出発の週には台風26号と27号が鎮座し、飛行機すら飛ばないのでは?とやきもきした。出発日は雨の中を成田に向かったが、台風と行き違うように着いた釜山は秋晴れだった。
 今回も旅慣れた愛好家仲間が旅程をコーディネートしてくれた。昨年とほぼ同じ行程のはずが飛行機が遅れたのと、ホテルのチェックインに手間取ったために(理由は不手際による二重予約らしい)翌日のためのロケハンに出た18時頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。会場となる広安里ビーチに出ると既に広安大橋との間の海上にアンカーで固定された打ち上げ台船がようやく見えるくらい。数えると前に3隻、その後ろに3隻、この時間では計6隻の台船が確認できたのみ。その位置と後方の広安大橋との相関の位置から、翌日のだいたいの観覧場所を物色していく。音響関係のテストのためか繰り返し大音響で音楽が流されていた。ビーチには各所に大規模なスピーカーシステムが等間隔に鎮座していたが、この時点で昨年には無かった場所に新しく設置され、トータルとしてスピーカーの台数が増えていた。こうなると視界の障害になるのでスピーカーの後ろは避けることは当然ながら、距離を置くことも重要と感じた。スピーカーは浜に向けてと後方に向けてと音の出口が表裏にあり、後ろを通りかかるだけでも耳をつんざく大音量と振動だった。後で考えると前夕のこのロケハンの時にスピーカーからの音を聴いていたことが役に立った。
 広安大橋のイルミネーションは昨年とは違った形にパワーアップしていた。サーチライトはほとんど無く、そのかわりに側面全体にLEDをまとい、電光掲示板のように文字を流したり、自在に色を変えたりカラフルだった。下からライトを当てている日本の橋梁と違って、橋全体が発光体という凄さだ。
 また翌日の演出に使うであろうこれまたLED満載の電飾船がさまざまなパターンを映し出していた。まるで船に液晶ディスプレイが積んであるような鮮明さだった。
 だいたいよさそうなポイントをいくつかチェックし、あとは翌日陽が昇らないと海上の詳細がわからないため、夕食を摂ってロケハンと下見終了。
  

広安大橋の日の出と台船3隻

打上台船左

打上台船中

打上台船右

電飾台船

電飾台船・2005年
釜山花火祭り開催 と表示

向こう側が見える

扇打ち台船

扇打ち台船

三尺筒?二尺筒?
   
 前年、わりと懲りたので当日は日本ですら近年まったく経験のない午前5時過ぎにビーチに場所取りに向かう。釜山は福岡くらいの位置だから関東地方よりちょうど1時間ほど日の出が遅いのでこの時間は未だ真っ暗だ。このところ関東圏も寒かったので、もしやと思って寒さ対策の衣類を用意してきて良かった。前の晩が思っていた以上に寒く、夕食後にホテルに戻る際には歯がガチガチするように震えた。だから早朝ということもあり、ヒートテックのアンダーやセーターも着込んで出てきたが風も強めでやはり寒い朝だった。
 すると目星をつけていた場所のひとつには先客が既に三脚を建てていたのに仰天した。その付近のポイントにもいくつか三脚が置かれていてびっくりだった。こっちの写真愛好家もチクショウやるじゃないか。まだ暗いけれどビーチの歩道はウォーキングやジョギング、犬の散歩をする人通りが絶え間ない。
 それでも一番確保したい場所は楽勝だったので、暗いうちから三脚を立ててとりあえず安堵を得た。当然ながらこの撮影予定場所でそのまま日の出を迎えた。広安大橋の向こう快晴の空に昇る朝日はこの日の好天を約束してくれるかのようで、今年こそお願いしますと祈る気分だった。
 午前7時には同行した仲間が続いてやって来る。そしてそれからが花火打ち上げ終了の21時までの16時間半をほぼビーチで過ごすことになる長い長い一日の始まりだ。
 ビーチを左右に移動しながら眺めると、逆光の海上に浮かぶ台船は6隻に加えて、昨年も在った巨大な扇打ちのアーチを乗せた台船と中央奥にさらに大筒台船があるのがわかった。そこには目視でなんと二尺筒1本と尺筒が5〜6本見て取れた。他の台船も日が高くなるにつれてそこに積載している花火量があきらかに見て取れるようになってくる。
 仲間がタクシーを駆って、広安大橋上に設置された花火の状況を見物に行ったのでその様子を聞かせてもらう。四車線のうち沖側の2車線を使って大量の筒が設置されているとのこと。交通量の多い橋は、設置場所直前から車線規制されてだいぶ渋滞していた。
 手前3つが電飾台船。小型煙火と曲打ちなど仕掛け物。真ん中が最大15号までの打ち上げ台船。奥の3番目は20号からの大筒台船、広安大橋上の打ち上げも15号まで。メインの打ち上げは真ん中の台船と思われ、浜からの間合いは約500メートル。当然ながら1.3キロメートル先の橋の上の10号より手前の10号の方が高さが出る。台船の設置は浜辺に平行ではなく、特設ステージのある辺りをショーセンターとしてその方向に向けてある感じだ。
 手前真ん中の電飾台船の直後に置かれた扇打ち台船は、日中の観察ではアーチ上には25箇所に放射状にひとかたまりの筒が設置され、その一箇所あたり最大16本の筒が並んでいた。
 電飾台船に搭載されたディスプレイは、昨年は長方形だったが今回は「眼の形」。実際目玉が表示されるとまさにそのためか、と思うほどの形状だ。しかしその形からしてこのショーのためのスペシャル制作か。金がかかっているなぁ。このディスプレイは動画や文字を表示している時はわからないが、消灯時は後ろが透けて見えるような構造物だ。これは完全な閉鎖面にしてしまうとそれが帆になるくらいならともかく風を受けて転覆や倒壊してしまう恐れがあるから風通しが良くなっているのだという。
 観覧・撮影場所はこれら台船の位置やそれと広安大橋との重なり具合、スピーカーの配置などを考慮した。そしてビーチ沿いのペーブメントの上でソテツやら椰子の木の植え込みを背後にした。植え込みの周りは腰掛けられる高さ。そこに座って撮っても、周りに立って撮っても良く、さらに木の幹という障害物を最初から背後にするというセオリーどおり、それで立って撮ったとしても後ろから文句やペットボトルが飛んでくる心配がない。さらに前を横切られるような混雑状況になってもさらなる奥の手を出せる場所だった。目の前は3メートルくらいしてビーチに降りる階段になっている。他にカメラやビデオをやる者が来ても、この階段の最上段に座って撮影するだろうから視界は問題なしと(日本的に)考えていた。
 午前5時半から場所取りしていた私どもが当然ながら先取りなのだが、しかし私たちの前に、後から来て縮めた動画用三脚を置いた者たちは驚くべき行動に出る。日中そこにいたのは先発隊だったようで、後からどんどんビデオ録りの仲間が増えていくのだった。そして夕刻にはてっきり座って録ると思いこんでいたビデオ軍団全員が横一列にめいっぱい三脚を延ばして目の前に壁を作り出した。とはいえ三脚がアレなものだから垣根程度の壁ですが。
 同行した仲間が「見えないから低くしろ」と身振りで抗議したが、どちらも言葉が通じない同士では喧嘩にも抗議にもならない。となると頭も冷える。おまけに抗議の根拠が“日本での常識”なんだからそれがこの地で通用するかも不明だ。結局何本ものビデオ三脚と立って録るビデオ軍団が完全に壁になって視界が塞がれた。全員が見たこともないSONY製の高級なビデオカメラを据えていたのにも驚いた。
 私もその後ろでただ立って三脚を立てただけでは、連中のより背が高い三脚とはいえさすがに人の頭越しには視界の下半分が削られる格好。花火は見えても橋と海面が見えない。まぁそこは花火撮影に関しては百戦錬磨の花火野郎。「なんとしても撮る」ということでは負けませんぜ。そういうこともあるかと想定しての場所取りなのでそれほど腹も立たなかった。
 しかしこうした撮影組録画組のせめぎ合いなど些細なことと消し飛ぶほどに観覧状況は夕刻になるとかつて体験したことのない壮絶な事態になっていくのだった。
 


ビーチ最前列の場所取り

スピーカーの一カ所分

スピーカーの一カ所分

愛好家達

ビデオ軍団立ちはだかる
この程度の三脚ですが
  
 午前中は少ないなぁと思っていた三脚だったが、午後になると気が付けば私たちの近くだけでも浜に沿って横一列に2〜300本。いずれもキャノンやニコンやソニーといった日本製のスチルカメラやビデオカメラが乗っていた。昨年は嵐でわからなかったが、こちらでもアマチュアの写真/動画愛好熱は高いようだった。ビーチ全体ではどれほどのカメラが据えられているのだろう。共通しているのは高価な日本製のカメラは手に入れてもそれに見合う三脚にはお金がかかってないということだろうか。
 私たちは交代で食事やら着替えを取りに行ったりをしながら長い午後を場所取りしながら過ごした。日本からの顔見知りの花火愛好家にも出会ったりして、まるで日本の大会に居るみたいだ。日中は気温も上がったのでいったん薄着にしたが昨晩のことを考えて、アンダーはヒートテック。上着の下にはセーターも着込んで夜にのぞんだ。
 花火前のコンサートが18時から20時まで行われるが、音楽を本番の音量で流し始めた時、少なくともこの場所で良かったと思った。ロケハンの時に音を聞いていたので助かった。それは凄い重低音の音圧で座っている場所までビリビリ振動しているかと思うほどだった。スピーカーの近くだったら、視界が遮られるだけでなく音量に耐えられないのと、その空気振動で三脚が共鳴して揺れてしまうだろう。スピーカーは前年より増えているのでそれぞれの間隔が接近しているが、少しでも距離を置いた位置に場所を構えてよかった。
 前にビデオ屋の壁があるから私たちと壁の間には(見えないから)客は入ってこないだろうと(日本的に)考えていたが通用しない大間違いだった。17時を超えると次第に客が増え始め、開始一時間前の19時を過ぎると次々にビーチに入っていこうと殺到する客で凄絶な状況になっていった。
 既に何度も見ている見巧者の愛好家仲間から幾度も話は聞いていた。肩が触れるほどの混雑だと。しかし実際に目の当たりにして、そのただ中にいるとそれは本当に震撼する思いだった。花火観覧経験はそこそこ在ると思っているが、少なくとも日本の花火大会ではこれほど混雑した観覧場所は見たことも居たこともない異次元の混みようだった。日本の大会でもたとえば終了後の最寄り駅の外だとか構内だとかは似たような状況だ。しかし観覧場所でそうなっているのは味わったことがない。
 いよいよ開始30分を切ると立錐の余地もない場所にさらにさらに客が乱入していく状況で、うはは〜こりゃ凄いや。日本だと混雑していても、シートを敷いて座っている人同士は体が触れることもないが、ここでは体が触れないほどの隙間があればそこに平気で入り込んでくる。前がどうなっているかは考えずに入ったもののそのうち立ち往生してそのまま立ち見に転ずる。そこに既に座っている客が居ようと気にもとめないのは呆れるばかり。当然あちこちで言い争いになるが、いいぞ、もっとやれ。私らの前に三脚の壁を造るなど、後ろで見ている者の事は意に介さないという振る舞いのビデオ軍団だったが、周囲を立ち見の客にみっちり取り囲まれていた。こうなるとお気の毒としか思えない。
 この広安里ビーチの混雑状況は大都市圏の人以外にはわかりにくいかもしれないが、大げさに言えば朝のラッシュアワーの通勤電車の中だ。駅に入るたびにもう扉が容易に開かないほど乗っているのに、さらに各停車駅から客が乗り込んでいく、そういう感じだ。そしてその満員の車内で三脚を拡げているのだ。そして50分間、3本の脚を守りながら、いっさいカメラをブラさせずに撮影や録画を続ける。この観覧場所はそういうところだ。しかも総立ちの客の中から頭ひとつカメラが抜き出ていなければ絵にならない。
  

前触れの花火演出
紅牡丹がこの出来………

おそらくミスで1箇所抜けて4発

フェニックス乱舞
  
「釜山花火祭り」はこのイベントの総称で、前夜祭としてのコンサートを含め、26日当日は14時から20時までは、ビーチ沿いの歩道の一部でストリート公演としてバンド演奏、ビーチ上の特設ステージでは花火音楽会として招聘歌手の公演やバンド演奏が行われる。
 そして花火祭りのハイライトが「釜山マルチ花火ショー」で、20時から約1時間の間、広安大橋と広安里海水浴場前面海上で花火打ち上げが繰り広げられる。これが私どもの最大の観覧目的だ。公式には歴代最大規模とうたわれている。「多彩な花火だけでなく、色とりどりのレーザーをテーマ音楽に合わせて楽しむことができる-マルチメディア海上ショー-や、特殊な形をした花火や超大型花火などを見ることができるのが特徴」とパンフレットなどで解説されている。
 そもそもこの大会がどういう名目で開催されているかわからない。簡単なパンフレットを見てもそうした「開催の主旨」については触れられていない。なんでも2005年のAPEC首脳会議の際に行われた「慶祝先端マルチメディア海上ショー」が始まりで、それが評判が良かったので続けている、といういきさつらしい。以降毎年100万人以上の客を集めているとのこと。地元市と韓国の大企業が出資しているとはいえ、国がらみの行事となるとここまで金も行政のサポートも行き届いているのかと感心する。
 本番前にコンサート中に「前触れの花火演出」として予告打ち上げが1時間前、30分前、15分前の3回行われたので画角や風向きをみるのに好都合だった。風は北東の微風。ゆっくりと向かって左から右へ、広安大橋に平行に吹いていた。
 お待ちかねの釜山マルチ花火ショーは特設ステージからのカウントダウンとともにやや定刻を過ぎて始まった。あとはわずかの内容説明(現地語・不明)のアナウンスのインターバルを挟んでほぼ打ちっ放しだった。カメラの記録では最終カットは20時48分になっている。
 花火は自国製もあろうが中国製が大部分だろうか、小型煙火から大玉、水中モノまで種類や打ち方は実に多彩。10号も多いが、サイズの割に菊、牡丹、芯入り、冠、椰子、クロセットといったところで八重芯も数えるほど。物量と演出は素晴らしく複雑な打ち上げ方も多い。日本じゃできない方法(橋梁からの打ち上げ)も取り入れられている。単位時間当たりの物量と演出で見せる欧米型のショーだが、その中で咲いている花火が美しいフォルムで開いていることがどれほど重要かを知らされるのだ。個々の花火玉については日本で一流煙火店の作る精緻な玉を見られることはなんと幸せなのかとありがたく思える。10号の曲導が10本も出れば、おおお、と期待するのだが開いたとたんに、あぁぁと脱力する。これが日本の芸協玉ででもあるならどれほどの絶叫だろうか。
 打ち方としては、常に全台船から打っているわけではなく、緩急をつけて手前だけ、真ん中だけ、橋からだけ、その組み合わせと打ち分けられている。変わった趣向では日本でも一部地域で見られる「水中金魚花火」。これを手前左右の電飾台船から大量に放出した。例の巨大アーチ搭載船からは要所要所で相当星を遠くまで派手に放射状曲打ちを繰り返し放っていた。
 目を引いたのは張り物ナイアガラの前に披露された変わった滝仕掛だ。全長は1,000メートルで、滝仕掛けと言えるのかはわからないが、日本では一度も見たことのない仕掛けだった。一定の量で連続的に落ちるナイアガラの火の粉と違って、赤、緑、黄色の火の粉がまとまった量で一定間隔で落ちるといった感じで、写真では伝わるかどうかだが動画向きの仕掛けだと思った。これについて釜山花火祭りの公式では、「広安大橋下へ花火が2秒ごとに落ちるカラーイグアス花火」と表現しているが、今回初めてのリリースとも書かれている。その構造について愛好家仲間とひとしきり話し合った。
 この後でいわゆるナイアガラ仕掛けと花火の競演も用意されていた。全長は同じで全てに火が回らないうちにも会場全体から大歓声が沸き上がる。ナイアガラは息の長いものでしばらく火の粉が途絶えなかった。
 終盤フェニックスが5羽観客の目の前の夜空を舞った。これはラジコン操縦のエアプレーンだが、主翼と胴体にフェニックスの形に電飾が施されていて鳥が飛んでいるようにビーチ前面海上を自在に飛び回る。途中から翼に仕掛けられた花火に点火され錦の火の粉を引きながら飛ぶ。火種を撒き散らして飛ぶのだから日本ではまず許可されないだろうということだ。しかし綺麗で楽しい仕掛けではある。
 フィナーレは全台船と橋からの猛爆一斉掃射という感じで盛大な幕切れだった。こういうときはやはり錦冠の金色一色というのは日本と同じだなぁと思う。日中見て取れた二尺はどこで上がったのかわからなかった。
  

カラーイグアス花火

ナイアガラと錦系

   

ツアー向け椅子席の様子
  
 終盤はどこか高い場所に立たなければまったく見えないようなほどお客は総立ち状態で参りましたという感じ。終了して振り返って思えば、このような状況でなんとか視界良好で撮影できたのは最初の場所取りが全てだったと思う。そうでなければ立ち見で花火を見るだけならともかく撮影や録画をしての完全燃焼はそうとう困難だったはずだ。そこは日本の大会での自分の経験が役立った。最悪の撮影環境になってもそれでも撮れるという奥の手を出すとは思わなかったが、そういう事態を想定しておいて良かった。
 経験則もあるが、なにより旅の仲間がいて、時に人混みの中で三脚を護ってもらったりしてくれたことに感謝したい。そうした連携あってこその撮影で、単独で乗り込んで他国人に囲まれての撮りでは困難だったと思う。それでも鼻歌で撮れるような快適さではなく、人の多さにピリピリするどころか恐怖を感じる密集状態だった。だから人混みにイラつくよりはむしろ冷静になっていた。殺到する周りの雰囲気が花火への熱狂や没頭を許さない感じで、そういうのは安心して三脚を拡げられるくつろいだ環境でないと無理なのだ。フィナーレの猛爆の後も、「最高(チェゴーッ!)」とか叫ぶ自分は無くて淡々と片づけた。とにかく花火を観るためならどのような我慢も忍耐も可能だと考えた。昨年があのコンディションで、花火を見るも撮影も、なにひとつ手を下せないままに帰国しなければならなかった無念からとにかく私をこの花火大会の打ち上げの前に立たせてくれ、という願いと共に。
 機材は三脚1本、一眼レフデジタルカメラ1台だ。まぁこの満員電車の観覧状況では1本の三脚を死守するだけでも精一杯。高さは稼いでいるがスペースが限られるため脚を完全展開ではなくコンパクトに立てているので不安定。奥の手発動でも周りにまったく人がいないわけではないので、3本の脚を常に監視し立ったまま足で肘で隣人との接触をガードしながらも、花火に集中する撮影には精根尽き果てた。
 昨年は撮らないのでわからなかったが、全ての台船を横位置で納めると24ミリでは足らないので、それなりのレンズ構成で望んでいる。
 観覧記は撮影ガイドではないからどこでどうして撮りましたとまでは書かない。各自のロケハンと工夫に任せたい。場所取りはなにも暗いうちでなくも昼くらいまでなら三脚を立てるに問題はない。しかしビーチの場所によると思うが、花火開催時間には予想の遙か上を越える味わったことのない混雑のまっただ中になることは覚悟しておきたい。
 広安里ビーチで混雑の影響を受けにくい絶対領域は、波打ち際の規制線のある最前列に鎮座することだ。遅く来た観客は最前列まで到達することがほとんどできないからだ。しかしデメリットは規制線の向こう側にスタッフが歩き座り込み、立ちふさがる場合もあること。波打ち際からの潮気が飛沫となって飛んできて機材を濡らすこともある点だ。
 数あるこの花火の観覧ツアーを使うと、ビーチの一角に無数の樹脂製の椅子を並べた外国人向け専用有料席が宛われる事が多い(写真)。この場合上に書いたような大混雑混乱は無縁になる。そのかわり有料席の設置場所はビーチの北東側の一番外れの端っこ。広安大橋に向かって左の端だ。そのため橋からの打ち上げの一部がビルの陰になって全貌が見えない点を除けば快適と言える(打ち上げ台船とそこからの花火は全て見える)。
 イベント終了後は日本の大会同様、一斉に最寄り駅に向かうからしばらくは身動きできない。日本の大会ではもうあまり見かけないが、人が立ち去った後は想像を絶するゴミの山なのに驚いた。ビーチも歩道も、通行止めになっている幹線道路もゴミにあふれている。しかしそれが一晩のうちに綺麗さっぱりと片づけられていたのにも驚いた。
 この花火ショーは観光資源としても十分すぎる内容や費用のかかり具合。釜山広域市をあげてというより、国家主導で韓国の名だたる企業がスポンサーとなった大規模花火ショーであることは間違いない。花火はもちろん一晩での完璧な清掃作業だけをみてもその部分だけでも相当な費用がつぎ込まれていると感じる。日本では総合的に見て日本のどこででも同じ事はできないだろう。興味のある花火愛好家は一度見ておくのも悪くないと思う。
 翌日の空港でKBSのニュースでこの花火の様子が流れた。少なくとも4方向から狙った録画は力の入った中継だった。それを見て「やっと終わったやり遂げた」と深く安堵した。私にとっては50分だけの花火ショーではなく、1年をかけたひとつの観覧がようやく終わったという感じだ。
 なお翌2014年度の開催については、可否または開催場所についても(同じ場所で開催するかどうか)現段階では未定であるということだ。
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