花火野郎の観覧日記2010

観覧日記その8 7/31
第9回 こうのす花火大会
  
埼玉県・鴻巣市

 徒歩で会場に向かう。ここは会場までが遠い。駅から最も近いあたりで堤防道路に上がった。今日は事前に観覧場所を検討済みだった。風向き予報からグーグルマップを見て検討、メインの打上場所を斜め後方から遠目に見るような位置だ。メイン会場正面からは昨年撮っているし予報では風向きが問題だった。
 だいたい予定地点に三脚を立て、何度か位置を調整する。さて肝心の三尺はどこから上がるのだろう。
 この河川敷は、低い立木がうっそうとしていて見通しが悪い。筒は見つからないかも、と双眼鏡を覗く。筒があるなら保安距離の関係からこの辺、というあたりを探すと、立木の上にすでに防火シートを被せた三尺筒が顔を出していた。それから堤防道路をメイン会場側に移動していくと、立木の合間から直接三尺筒が根本から見える場所が何箇所かあってそれで確認できた。赤色と黄色の筒が2本、間隔は3〜40メートルで並んで建っていた。目測だが、メイン会場からは700メートルくらいではないだろうか。直角で離れた2点から見なかったので、三尺の筒の正確な位置は特定できなかった。しかし観覧予定位置からは真っ正面に三尺筒が見えた。もし三尺の位置が推定通りだとすると、私が居る辺りはメイン会場より三尺に近いのではないかと思われた。
 プログラムを入手しに行きがてら、長大な堤防道路を歩いてメイン会場まで往復する。昨年は古くからの知り合い一人とだけ出会ったのみだったけれど、今年はどうしたわけか愛好家が多数来場していた。聞けば打上場所を挟んで対岸にも自家用車組が来ているらしい。
 愛好家諸氏を色めき立たせたのは、埼玉ではここだけの三尺玉ということもあるけれど、それ以上に担当煙火店と懇意な愛好家が、2発の三尺玉のうちひとつが芯入の小割浮模様だと情報を流したためらしい。三尺の芯入!すげぇ、とこうなったわけか……。近年急速に愛好家になられた方々はおそらく見る機会がなかっただろうと思うが、かつての片貝まつりなどでは芯入の三尺はよく上がっていた。
 対岸か……。ここはなんでも「川幅日本一」というのを売りにしているらしく、打上プログラムでもワイドスターマインを「川幅花火」と称しているくらいだ。川幅というが流れる荒川そのものの幅はそれほどじゃない。荒川が造り出した河川敷が広大なのだ。こちらの堤防から彼方の堤防まだの差し渡しが日本一ということだ。確かに向こう側の堤防が見えないくらいの広大さだ。
 あちこちで愛好家と出会って立ち話などしながら元の観覧場所に戻る。メインの打上場所まで距離があるので、今日は7号から上の打上と三尺玉狙い。
 打上は19時31分と昨年より30分遅く、開催時間も90分と短縮された。19時前後になると驚くほどの観客が押し寄せはじめた。堤防の背後は田圃だったが、駅方面からの農道は堤防に向かう観客の列が途切れることなく延々と続いていた。メインまでは相当歩かなければならず、もうこの辺でいいやと腰を下ろす客も多く、私の周りも眼下の斜面もたちまち観客で埋まっていった。昨年はこの時間にはメイン会場にもう入っていたので、あとからこれほど客が訪れるのだとは知らなかった。
 開始前、三脚の前に立っている。ただそれだげて汗が噴き出す。猛烈な蒸し暑さに閉口した。風も途絶え息苦しいほどの暑さに消耗した。現着16時とゆっくり出てきたのに消耗して開始前に眠くなってしまった。
 南側の地平線に花火が見えた。同日開催の上尾の花火大会は19時スタートらしい。尺が上がるとけっこう高く見えた。
 カウントダウンして開始。プログラム立てはスターマインと単発の繰り返しだが、10号の対打ち、3箇所同時打ち、ワイドスターマインなどを挟んで変化を付けているのが好感触。私の位置からはスターマインは遠すぎるので迫力はいまいちだが、単発は7号でも玉の出来は良くて充分に楽しめた。
 風は当初予報通りに南東くらいで、メイン会場直撃だった。しかし中盤から後は東北東とかなり変化し、メインから見て左から右への横風。私の居る堤防側からだと順風の良い条件になった。それでようやく涼しいと感じるようになった。
  

スターマインと7号

同時打ち

同時打ち

同時打ち

合同スターマイン

尺の乱れ打ち
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尺の乱れ打ち

尺の乱れ打ち

尺の乱れ打ち

三尺の一発目
   
 予想通りだがスターマイン系はズームレンズの望遠端でも足りないくらいの見かけの大きさ。だから7号以上の単発、10号の対打ちや3発同時打ちなどを中心に撮る。スターマインはワイド系でもなかなか大きな玉が積まれないので上空が空きとなり構図バランスがいまいち。
 進行はだいたい遅れもなく順調だった。メイン会場のアナウンスは当然聞こえない距離だがFM実況中継があるのだ。携帯ラジオで聴きながら、と思ったら隣の家族連れが大きなラジカセから大音量で実況を流してくれたので、まるでメイン会場に居るように進行がよくわかった。途中点火ミスでワイド系プログラムの入れ替わりがあったが、滞りと言えばそれくらいだ。
 終盤のプログラム「尺の乱れ打ち」は、通常の10号打上ラインからの乱打と思っていたが、予想はとんでもなく良い方向に裏切られた。なんと三尺筒を置いてある辺りの真っ正面から3箇所ワイドで尺が上がり始めて驚かされた。
 三箇所もメイン向けに設置してあるのか、私から見ると手前、中、奥と位置しているらしい。方向の違いは対処したものの手前の10号はそれまで撮っていた35ミリの画角では天地がぎりぎりだった。これまで遠望していたのに突然目の前で大玉打ちがワイドで始まり、周りの観客からも驚きの歓声が上がる。玉内容も良く、圧倒され、深く満足した出しものだった。手が痛いほど拍手した。素晴らしい。
 暗くなると三尺筒の位置が判らなくなるので、今回はカメラ一台三尺専用として、明るいうちに三尺方向に向けて構図を取り固定としている。
 いよいよ最後のプログラム。昨年は三尺はなかったが、一昨年の主催者ブログや投降写真などを見ると、三尺は長岡のように単独打ちじゃなく、事前に(メインから見て手前で)ワイドスターマインやナイアガラをやっているようだ。
 今回、この観覧位置にしたのは、風向きもあるけれど、せっかくの三尺玉を「単独で」観たかったし、撮りたかったのだ。はたしてメイン側では5箇所くらいのワイド打ちが始まった。さて、どの瞬間で三尺を打つのか?2発を時間を置いて打つのか、それとも同時か、追い打ちか……それは事前にわからなかった、出てからのお楽しみだ。
 カメラを2台とも三尺筒にむけて、両手にレリーズ、緊迫の時間が始まった。メイン側の打上は続く、しかしそれは完全に画面外で視界の外だ。ただ1点。三尺の筒に火が入るのだけを待つ。
 「!!!!っ」。
 一発目はなんと「巣割れ」。いや過早発か。少し打ち上がって直ぐに開いたようだ。
 錦の星と小割がまぜこぜになって一瞬で最大径に拡がるそのスピードと巨大さに驚いた。三尺のそれは初めて観る。凄いけれど打ち上るべきものがそうならなかったのは、失敗であり残念至極。しかしそんなことよりまだあと一発残っている。と次の射出の瞬間に全神経を集中する。
 視界の外でメインの打ち上げが続くが、ただ一点。三尺の筒方向を見据える。
 「来たっ!」
 ゆっくりと曲導が昇る。わぁーーーあああ。周りで歓声が上がる。その座る高さを見てその時は「綺麗に画角に入ったな」と冷静だった。しかし。開花と共に強烈な音と瀑圧が襲いかかる。
 奥歯をぐっと噛んだ。「う…」
 カッタンカッタン…ジェットコースターが最高地点に上り詰め、いよいよ落下にかかるという時にぐっと全身が身構える、あの感じ。
 開花は闇の天井に忽然と出来た黄金(こがね)色の裂け目となって、みるみる視界一杯に拡がる。
 「……盆に呑み込まれるっ」錯覚の戦慄が緊張感が心に拡がる。
 それはすぐに色とりどりの小割りと共に美しさの衝撃に変わっていく。
 声にならない感動が雄大な星の引きと共に、深い余韻になってたなびいていく。
 我に返ってレリーズを離すけれど、声が出ない。凄い……久しぶりに凄いモノ観ちゃった…。順風の好コンディションでありながら、盆に圧倒されるとは思ってもみなかった。
 片づけて駅に向かう。ちょっと茫然としている。私の近隣の多くの観客が同じ体験をしたわけだけどど真っ正面。観覧場所を決めて、測距したときからそうだと判っていたけど、これほどとは。昨年鴻巣を観た。しかし三尺抜きの鴻巣は本来ではなかったのだ。川幅日本一、と河川敷の幅広さを謳う鴻巣市だが、その広さを活かした三尺打上。これは凄い見物だった。
 私の乏しい観覧経験では、全国の三尺玉打上を全て観たわけではない。しかし間違いなく、私の経験の中では、三尺の体感ベストワン。味わって欲しい。彼方の三尺でなく、すぐそこにある三尺を。
 花火大会は永い時間をかけて熟成する。だから突然に素晴らしい大会が生まれることはない。この鴻巣はやる気のあるスタッフに恵まれて幸いだ。いまでこそ花火大会を消化行事に考える自治体は少ないだろうけど、大会を支えるスタッフが一丸となって、良くしていこうという大会は稀少だ。どれほど万端の準備や会合を重ねても毎年毎回、いくらでも問題が発生するだろう、でもそれは良い大会への通過点だ。
 県内で住処の隣の市にこのような大会があるなんて嬉しい。未だ9回。ポテンシャルと可能性を持った大会に期待したいと思う。

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