打ち上げ本番ドキュメント

終盤、長野五輪エンブレムを模した万華の花が咲き乱れる

    
 本番の打ち上げは19時20分スタート予定。式次第の進行によって前後5分程度の余裕をみている。それでも各煙火業者は30分前から完全なスタンバイ状態に入っていた。緊張の瞬間が近づいていた。そのころ場内の手筒から発せられる膨大な煙が西側仮設スタンドを覆ったため、それが晴れるまでほんの少しスタートが遅れた。
 「3…、2…、1…、点火っ!」進行本部からのキューを受けて、指揮者藤原氏からの合図一閃、それぞれが数百メートルから1キロメートル以上も離れた5箇所の現場で、一斉に最初の点火スイッチが押された。全てが何度も行われたリハーサル通りに。
 その瞬間、轟音と共にスタジアムをとりまくように5本の火柱が揃って上がった。そして6番目、やや遅れてスタジアムを揺るがすような大歓声が天空に立ち昇っていった。

 イントロの春の部は緑牡丹のスターマインに緑の芯入りの紫牡丹。ラストは緑の飛遊星を散らした上空に、満開の桜を思わせるピンクの千輪で飾った。
 夏に移って、太陽を思わせる紅牡丹に、7号10号のひまわりの花が次々に開く。各色牡丹のスターマインに一斉の椰子が天を焦がし、菊花壇の秋のパートへ。
 秋の部では、日本の伝統的な割物花火をじっくりと打つ。8分間という時間枠の中で打ち上げ間隔を割り振ったものだけに、このパートでは、打ち上げ間隔をやや早めの6秒に設定。本来は8秒程度が最適であるという。何れの玉も見事な芯入り、そして特にメインポールのセンター打ち上げ地点では、日本の割物花火の精髄、尺玉の八重芯と三重芯が披露される。数々の菊花が咲き、一段と観衆が沸いている。
 入れ替わるように白銀の菊と冠が一面に咲き始める冬のパート。銀世界に変わった夜空は冬季大会を象徴しているようだ。
 次いで5パート目、エンディングへと向かう。五輪旗のイメージか、各色の輪物花火が打ち上げられ、大会のエンブレムを連想させる色とりどりの花弁を持つ万華の花が咲き乱れた。その色彩は実に鮮やかに映えた。
 ラストは錦冠菊の一斉打ちで、金色の火の粉が会場一帯を覆って夢のような一幕がひとまず終了した。
 約10分後、花雷を中心とした60発が一斉に打ち上がり、全てを締めくくった。
 世界が注目する中、全ての現場で、予定していた花火玉を無事故で消費した。打ち上げは大成功だったのである。トランシーバーからの合図に耳を傾け、点火スイッチに全神経を集中していた花火師達も、ようやく安堵感と共に晴れやかに夜空を見上げるのだった。
  
 残念ながら、TV映像では花火に歓声を上げる選手達のカットなどが挿入され、花火だけを映し続けたわけではない。それに加えて日本ではNHK-BSはノーカットで中継したものの、民放では打ち上げ中にCMを挿入して台無しになってしまった。海外でもCMでカットされた国があったようだ。
 そのようなわけで、フルに8分間、生(ナマ)の花火の凄さを味わったのは、スタジアムの5万人余の観衆と選手やスタッフ、スタジアム周辺の住民や見物客のみだろう。それでも日本全国、そして世界各地に中継されたこの花火をどれほど多くの人々が観たことだろう……。もしかしたら世界でもっとも多くの人が観覧した花火だったのかもしれない。

「春の部の」打ち上げスタート。紫芯緑牡丹のスターマインに、7号、10号の緑芯紫牡丹が続く。

夏の部の終盤。青空を思わせる、澄んだブルーの牡丹スターマインに、細かい花弁の椰子がそよぐ。

秋の部、センターでは八重芯などの精緻な割物が続けざまに上がった。

冬、銀菊、銀冠のスターマイン。センターの10号は銀の芯入りである。

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