学校教科書に執筆の経緯
   

 この度2016年度(平成28年度)中学校2年生国語教科書(教育出版株式会社)において、同社の依頼により、「日本の花火の楽しみ」という表題で執筆させて頂きました。
 この学校教科書への執筆の依頼は2013年末まで遡ります。採択された教科書が使用され始めるのが今2016年4月からですから、4年近くの月日をかけて形になったと言えます。
 教育現場で採択される教科書は、ご存知のとおり文部科学省の教科書検定があるので、執筆、修正、検定本の完成、修正といった、とにかく修正作業の繰り返しで完成まで時間がかかります。検定を通ったからといって、学校の採択は任意となります。「教育現場で実際に使用される」教科書に成るまでに長い時間がかかるのだということを改めて感じさせていただきました。
 しかしながら、好きな花火のことについて学校教科書に原稿を書けるという実に光栄な依頼に乗ることにしたわけです。花火業界の人間でもない私がこのような仕事をさせてもらえるのはありがたい話で、恐悦至極でしたが、バラエティのテレビや情報雑誌ではなく、学校教育の場で花火の本来をきちんと若い世代に伝えるのは必要な機会だと考えました。それにしても現在の教育の場はずいぶん柔軟なことです。花火が国語教育の題材になるとは驚きで、もしうまく正しく伝えられるなら花火業界にとっては良いことだと考えました。
 しかし実際に携わってみると教科書という手前、書いたものが無傷で掲載されることはありえませんでした。
 授業の進め方から、その学年で習う漢字から述語から、全て決まりどおりだし、その観点からの訂正も数多かったのです。内容については私が自由に書きたいように書いたわけではなく、「花火の・・・について書いて欲しい」といくつかリクエストがあったものに応えた形になっています。また編集部の意向で、花火そのもの以上に、作り手の職人についても触れてほしいとのことで、花火師に関する記述も多くなっています。これに関してもできるだけ失礼の無いように配慮し、私がこれまでおつきあいさせていただいた花火師さんから直接聞かせていただいた、教えていただいた話を基に書いております。
 文字数制限も厳しく、1500字以内と指定されました。原稿用紙で4枚足らずで、これはけっして多くない分量です。むしろ要求された内容を網羅するには相当少なすぎると言えるでしょう。
 そして最初の原稿は原型を止めていないに等しいくらいに細部にわたって修正が入りました。例えば、「開花後星は放物線を描いて飛ぶ」と書くと、「中学2年の数学では放物線は習っていないので別の表現で」といった具合です。用字用語はもちろん、述語の正確な用法を求められ、慣用的な言い方は通用しないと知らされました。職人のこだわり、と書けば、「こだわる」はマイナスイメージで使われるのが本来だから別の表現で、とかです。自分自身がいかにテキトーに日本語を用いていたか、あらためて学ばせていただいた次第です。
 それでも花火を本業にしているわけではない立場で、花火業界のこと花火師のことについて書く(出版社の要望)のですから間違いがあってはならないのと、時流に乗った話題は使えないということに気を遣いました。なにせ4年後以降にそれから継続して使われる(改訂があるまで)文章ですから、その時点まで、そしてそれ以降も生きている内容でなくてはならないわけです。もちろん未来のことなどわかりませんし、花火業界の5年後など読めやしません。花火が1995年から2005年くらいまでのコアな10年程にどれほど進化したかを知り、目の当たりにしてきた身としては、先のことなどまったくわからないと確信をもって言えるわけです。だからベーシックで、不変であろうことしか言えないし書けませんでした。今後、どのように花火が進化進歩して何かが変わっても、基本的なことは変わらない、そういうことだけにとどめたのです。
 執筆当初は色々出版社側と議論しました。「花火は美しい」と書くと、まず「美しさの定義を述べよ」と言われました。そこから説明していたら限られた文字数の中で、花火の話にいつまでも入れません。何かを見て「美しい」と感じるのはその人に生まれながら備わった感性であり、美しいとはどういうことか?を国語の教育現場でやることじゃありません、それは私の仕事ではないと思うのです。
 割物の写真のキャプションに玉名を入れて欲しいと要望すると、それって「商品名」にあたらないですか?教科書ですから特定の商品名はちょっと・・と意見が付くわけです。ううむ。「昇り曲付三重芯変化菊」くらいは種別で商品名と言えないのではないか。チョコとかガムみたいなということでチョココーティングプリッツェル菓子といえば、その菓子の材質と形態を表した一般名詞といえるが、ポッキーと書けば商品名となってしまうというところだろうか。だから玉名の法則にのっとった昇り曲付三重芯変化菊は、どの業者でも使える花火の名称だけれど、「光の宝石」「菊花の誉れ」「聖礼花」「虹色のブーケ」などの特定煙火店のオリジナルネームとなれば、もはや独自の商品名といえなくもない。だからそのような想定で、検定でのクレームを避けて玉名無しとなりました。
 私と編集部サイドとのやりとりや修正も微に入り細に入ったわけですが、それが一段落し、文部科学省の検定官が入るとさらに細かく、執拗なと思えるほどの修正意見が付いて、その度に表現を変えたり、言葉を置き換えたりが何度も繰り返されました。そしてようやく採用年の平成28年度の前年、平成27年度の夏前に見本本の完成に至ったわけです。
 私からは、原稿と共にいくつかの解説用の写真と図版も提供させていただきました。写真についても花火同様に流行や廃れもあるだろうことから、なるべく今後も観られるようなものをいくつか提示させていただき、採用は編集部が決めました。
 もちろんこの教科書を採択した学校以外ではこの文章を目にすることは無いのですが、私としては、学校教育の現場で短い章ながらも、花火と花火師について教材として取り上げられることは大変喜ばしいことだと考えております。
 見本本を送付して戴いた時に驚いたのは、B5サイズという大きさ。そして分厚い。今の教科書は大きいなぁということ。それになんと国語の教科書なのにフルカラー。図鑑のように色彩豊かな作りに驚いたものです。
 残念ながら内容について、本「日本の花火」ホームページ上で全文を掲載することは出来ませんが、もし目にする機会があればご一読下さいませ。
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