玉名の法則?-法則というほどではないのですけれど

 菊や牡丹に代表される割物花火には、それぞれ花火の内容によって名前が付けられています。こうした花火玉の名前は総称して「玉名(ぎょくめい)」と呼んでいます。名前(タイトルですね)の付け方にはだいたい決まった方法論があり、伝統的な割物花火にはある決まった単語が使われています。こちらではどんな煙火業者でも共通して用いるような代表的な玉名用語を体系的に(?)まとめて、変化や現象の様子を解説してみました。
 現在はより新しい単語や、その業者独自の用語(独自に考案された星や変化は当然独自の用語になる)も使われています。
(写真左 昇曲導付八重雌雄芯変化菊・割物花火の玉には製作者によって玉名が書き込まれている。丸い花火玉に筆文字を入れるのも技術が必要)
  
日本の割物花火の玉名は、たとえば

 昇曲付変芯引先紅光露(のぼりきょくつき/へんしんひきさき/べにこうろ)

 などというものです。先頭から続けて読みますが、/は、この辺で切ると読みやすいかな、という個所です。読み方にもちょっと経験が要りますね。

 こうした玉名は、要するにその花火玉の種類と打ち上がってから消えるまで、どういう風に見えるか?を続けて書き表したものです。つまり玉名を読めばその玉の素性がわかる、という合理的な組立になっているわけです。。
 玉名の組立は、おもに下図のように上昇中の様子+芯部の有無とその様子+開発後の変化の様子+玉の種別+消え際あるいは星の末端部の変化の様子。から成ります。星の末端部の変化の様子(+後の変化)は必ず付くのではなく、後の曲というあしらいが付いた花火にだけ追加されます。

   
gyokumei.gif
   
曲物類、上昇途上変化系
  
昇〜
(のぼり〜)

銀竜
小花
分花
電光
置光月
太い尾(主に錦色)を引きながら上昇。
太い白(銀)色の尾を引きながら上昇。
上昇中に小さな花がいくつか開く。
(ぶんか)上昇中に四方に星を飛ばす。
上昇中に花雷がいくつか開く。
(おきこうげつ)上昇中にいくつかの吊り星が漂う。
昇〜付 小花
木葉
上昇中に小さな花がいくつか開く。
(きば)上昇中に左右に葉が開く
(ふえ)上昇中にピーと笛のような音を出す。
昇曲(導)付
(のぼりきょくどうつき)
なんらかの曲物が付いている場合の一般的総称
  
芯および構造の様子系 〜芯〜
   
芯入〜 しんいり=親星の内側に最低ひとつの芯を持つ、計2重丸以上の割物。〜には菊、牡丹などの語句が続く。
例 芯入冠菊、芯入菊先青光露 等
輝光〜芯
〜輝光芯
芯に明るいダリヤ星を使い、芯部が特に明るいもの
〜には色名が入る
例 輝光緑芯(きこうりょくしん)、紅輝光芯(べにきこうしん)
八重芯
三重芯
四重芯
やえしん=親星の内側に2重の芯を持つ、計3重丸の割物
みえしん=親星の内側に3重の芯を持つ、計4重丸の割物
よえしん=親星の内側に4重の芯を持つ、計5重丸の割物
雌雄芯 しゆうしん=芯部に打ち星を混ぜて使い、椰子のような芯が牡丹星などと同時に開く、雄しべ雌しべがあるの意味。
点滅芯 ピカピカと点滅を繰り返す星を使用。
キラ芯 キラキラした星くずのような芯、細波、漣とも呼ぶ。
未来花芯 星がいくつかずつまとまった花弁に開くもの。
彩色芯 4色から5色の色とりどりの牡丹星をランダムに使ったもの。
大葉入(おおばいり) 雌雄芯よりさらに大きな打ち星を使い、それが親星の外周にまで達するほどのもの。
覆輪(ふくりん) 芯部などに一周別の色の星、または形式の違う打ち星などを込めてその部分が「輪」になって見える。
芯月(しんつき) 芯にパラシュート付きの吊り星を込めてあり、本体開花後からしばらく明るい星が宙に漂う。=残月(ざんげつ)、残光(ざんこう)。
   
開発後の(星などの)変化系
  
変化〜 星の変色が引き色を除いて2度以上あること。
例 変化菊、八重芯変化菊 錦変化菊 等
引、引先
(ひき、ひきさき)
菊花の星の変化の状態にかかる言葉、またはその色からの変化を予定する。あるいは菊花火そのものを指す。
(例)引先青光露=引き色に続いて青に変化し、最後にピカッと光って消える。
錦、錦先
(にしき、にしきさき)
引き色が炭火色でなく、より明るい金色のもの。またはその色からの変化を予定する。
先〜、先之 星の末端部が〜になる 花弁の外側の変化が〜になる
(例)菊先之青紅=星の先の方で青から紅へ変色する(菊)。
銀波(ぎんぱ) 引き色が炭火色でなく、より明るい銀色系のもの。またはその色からの変化を予定する。
細波(さざなみ)
(さざなみ)
キラキラ
点滅と似ているが、細かい光の粉を残しながら飛ぶ。
点滅 ピカピカとまたたきながら飛ぶ星を親星に使う。
二化、三化 にか、さんか=二度変色する。三度変色するの意味。
〜度変化 星先が〜度変色するの意味。
   
その玉の基本的な種類、分類系
   
〜菊 〜には「変化」のほか色名が入る。錦変化菊、銀菊など
〜牡丹 〜には「変化」のほか色名が入る。錦牡丹、緑牡丹など
〜冠〜
〜冠菊
〜には錦、銀などが入る。一般的に冠系に他の色(紅冠とか青冠など)は無い。冠に続く菊は省略されることもある
例 錦冠菊先割 → 錦冠先割
ダリヤ マグネシウムなどを使った明るい星を使用した牡丹
小割〜 小割松島、小割千輪菊など
〜千輪菊
百花園
開花後ややおいて小花が一斉に開くタイプの花火
〜には彩色、銀、錦、点滅、花雷など色または小割玉の種類が入る
クロセット
クロセット千輪
いったん開いた小花のひとつひとつの星が、さらに4〜5つに枝分かれして2段階に開くタイプの千輪もの
〜椰子 太い花弁を持つ椰子の木の種類。指定が無ければ一般に金色だが、〜に色名が入るときは、その色の椰子になる。
例 紅椰子、バリ椰子、銀椰子
万華鏡 親星の花弁がいくつかずつまとまって開く形式の通称。
未来花、ポインセチア、洋蘭などの名称も使う。
   
消える直前の現象系
  
光露(こうろ)
〜輝(てか)
消える直前にピカッと、ひときわ明るく一瞬輝くもの。主に白=銀だが、〜に色名を入れて光る部分の色を特定する場合もある。
例 紅輝(べにてか)
しかし光露の前に色名が入る場合 例 紅光露(べにこうろ)は必ず光る直前の星の最終の色を指す。この場合紅色から銀色に光って消える。
降雪(こうせつ) やはり銀色に終わるが、光露ほど明るく輝かず、綿雪のように消える。
群声(ぐんせい) 消えるまぎわにザーッと波の寄せるような音を発する。
かすみ草 星先が消えてから、かすみ草のような綿毛(銀色)を残す。
〜先割(さきわれ) 消えるまぎわにパリパリと乾いた音を発する。
〜には色が入る。
点滅、
キラキラ
星の末端だけが点滅しながら消える。または親星全体が点滅星。

流星、飛星
遊星
星の先端部が、不規則に、様々な方向に自由運動するもの。
例 菊先紅蜂(きくさきべにばち)
  
後の曲系 -必ず玉名の最後に付ける
   
小割浮模様
(こわりうきもよう)
花火玉の中に小花の小割玉を込めてあり、本体(冠)などが開いたあとに小花が浮かぶもの。
親星とほぼ同時に小花が開く場合は、染込(模様)=そめこみもよう と呼ばれる。
残輪
(ざんりん)
親星に一周リング状に別の色、さらに一回り大きい星、または打ち星などを込めて、全ての星が消えた後に「輪」が残って見えるもの
  
色の表記 - 玉名に使われる花火の主な色名
   
伝統色 紅(べに。注・玉名に“赤-あか”の字も読みも使わない)、緑、青、黄、紫、銀、金、錦、輝
新色 水色、レモン色、ピンク、オレンジ、エメラルド
    
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